2026年3月のMIT Sloan Sports Analytics Conference(SSAC26)で、元リバプールFCリサーチ部門長のIan Graham氏が、終盤の同点局面でのチームの振る舞いについてこう語りました。

Teams don’t go for it enough. Teams think a draw is an okay result. (チームは攻めにいかなさすぎる。引き分けで十分だと考えている)

(出典:MIT News|2026 MIT Sloan Sports Analytics Conference shows why data make a difference

勝ち点制度の構造を考えると、もっと攻めるという選択肢があり得るのではないか、という指摘です。今回はこのことについては考えてみたいと思います。

勝ち点制度に組み込まれた非対称性

サッカーのリーグ戦における勝ち点制度は、1888年に創設されたイングランドのフットボールリーグから始まりました。当初の勝ち点配分は「勝利2ポイント・引き分け1ポイント」でした。

1981年、攻撃的なプレーをうながす狙いから、イングランドで勝利の勝ち点が3ポイントに引き上げられました。この「勝利3ポイント・引き分け1ポイント・敗北0ポイント」が1990年代を通じて世界の主要リーグに広がり、現在の標準となっています。

同点の状態から、残り時間で1点を取りにいくとどうなるか。もし勝てば、勝ち点は1から3に増えて+2ポイント。失点して負けてしまえば、勝ち点は1から0に減って-1ポイント。得られる報酬が、失うリスクの2倍という非対称性が、勝ち点制度の中に組み込まれています

旧制度であれば、勝てば+1、負ければ-1。利得と損失は等しく、対称的でした。1981年の制度変更は、「攻めて勝ったときの見返り」を「攻めて負けたときのペナルティ」の2倍に引き上げたわけです。

期待値で見ると何が変わるのか

この非対称性が意思決定にどう効くか。仮に終盤の同点局面で、次のような確率分布が成り立つとします。

  • 攻めにいく:勝率 35% / 引き分け(維持) 35% / 敗北 30%
  • 守りに入る:勝率 5% / 引き分け(維持)80% / 敗北 15%

このシナリオで、勝ち点の期待値を旧制度と新制度の両方で計算してみます。

  • 旧2点制度:攻める = 2×0.35 + 1×0.35 = 1.05pts / 守る = 2×0.05 + 1×0.80 = 0.90pts
  • 新3点制度:攻める = 3×0.35 + 1×0.35 = 1.40pts / 守る = 3×0.05 + 1×0.80 = 0.95pts

同じ確率分布のもとでも、攻めると守るの期待値の差は、旧制度で0.15ポイント、新制度で0.45ポイント。3ポイント制度になったことで、攻めにいく選択の優位性が3倍に拡大したことになります。 つまり、新制度では攻めにいく期待値が報われやすい構造に変わりました。

シーズンを通せば、この差はさらに積み上がります。仮に1シーズンで5回、終盤の同点局面に立ったとして、毎回0.45ポイントの期待値差を取りに行けば2.25ポイント。順位を1つか2つ動かすだけの幅になります。

もちろん、実際の試合で確率分布が事前に分かるわけではありません。攻めると守るの選択肢が、ここで置いた数字どおりの結果を生むかは、相手の強さや試合展開で変動します。期待値計算は意思決定の枠組みを与えるもので、個々の試合の正解を出すものではないわけです。

それでも、勝ち点制度の数字そのものに「攻めへのインセンティブ」が組み込まれていることは、計算の結果として確認できます。勝利の勝ち点3は、まさにこの効果を狙ったものでした。

なぜ慎重になるのか

期待値で割り切れないところに、人間の意思決定の特徴があります。

損失回避と呼ばれる心理的傾向があり、同じ大きさの利得と損失を比べたとき、人は損失の側を強く重く感じます。「いま手にしている勝ち点1を失う痛み」のほうが、「勝ち点が2増える可能性」よりも大きく見えてしまう、ということです。

監督や選手の側にも似た構造があります。引き分けで終えた試合は批判されにくく、攻めにいって失点して負けた試合は采配や戦術判断が問われやすい。この非対称性も、慎重な選択を後押しします。

加えて、すべてのチームに同じ重さで効くわけでもありません。残留争いのさなかにあるチームにとっては、勝ち点1を確実に取りにいく価値は他のチームより高くなります。順位帯や残り試合数次第で、合理的な選択は変わってくるわけです。

百年構想リーグのレギュレーション

2026年のJリーグ百年構想リーグでは、引き分けが存在せず、90分間で同点だった場合は延長戦なしでPK戦に入ります。勝ち点配分は、90分勝利が3ポイント、PK勝利が2ポイント、PK敗北が1ポイント、90分敗北が0ポイント。

先ほどと同じ確率分布で期待値を計算してみます(PK戦は五分五分と仮定)。

  • 攻めにいく:3×0.35 + 2×0.175 + 1×0.175 + 0×0.30 = 1.575pts
  • 守りに入る:3×0.05 + 2×0.40 + 1×0.40 + 0×0.15 = 1.350pts

差は0.225ポイント。通常制度での0.45ポイントと比べて、攻めの優位性がむしろ半減しています。

理由は、「90分同点に持ち込む」ことの価値が変わったことにあります。通常制度では、同点で終えれば勝ち点1で確定。百年構想リーグでは、同点に持ち込めば最低でもPK敗北の1ポイントが保証され、運がよければPK勝利の2ポイントが加わります。守りに入って同点に持ち込む選択の期待値が、底上げされたわけです。

なお、このレギュレーションであれば「90分勝利を勝ち点4にすべき」という意見も見かけます。

同じ確率分布で計算してみると、4・2・1・0の配分なら攻めると守るの差は0.525ポイントとなり、通常の3ポイント制度(0.45pts)を上回ります。引き分けを廃止しつつ攻めの優位性も維持するには、90分勝利の重みをさらに引き上げる設計が必要になる、ということが計算からは見えてきます。

参考

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