プログレッシブパスとは

プログレッシブパス(Progressive Passes)は、ゴール方向に一定以上前進させた成功パスを指す指標である。

パス数やパス成功率は、基本的なパスのスタッツとして広く使われている。ただし、これらの指標は「前進したかどうか」を区別しない。ゴールに直結する鋭い縦パスも、自陣でのゆるやかな横パスやバックパスも、成功すれば等しく1本として数えられる。実際にボールを効果的に前に運べているかは、数字だけでは読み取れない。

方向を捉える一歩として、ゴール方向に出された成功パスだけを切り出す「前方パス(forward pass)」の考え方がある。ただし前方パスは方向のみを条件にしており、1mの前進も30mの前進も等しく1本として扱われる。

プログレッシブパスは、前進量に一定の基準を設けることで、「ボールを本当に前に運んだパス」だけを抽出する仕組みである。複雑な確率モデルを使わず、距離と方向の条件だけで機械的に判定される。

Jリーグ公式サイトのスタッツページ(J STATS)には、2026年時点でプログレッシブパスは公開されていない。

ピッチ上で、プログレッシブパスとして判定されるパスと判定されないパスを対比した概念図。前進の基準を満たすパスと満たさないパスを矢印と記号で示している
プログレッシブパスは「一定の前進量」を満たす成功パスだけを抽出する

仕組みと読み方

計算の基本

プログレッシブパスの判定は、成功したパスについて、ボールが相手ゴール方向にどれだけ前進したかを計算し、一定の基準を超えたパスを1本のプログレッシブパスとしてカウントするという流れになる。

判定基準の設計はプロバイダーによって異なる。絶対距離を基準にする系統(例:何メートル以上の前進)と、ゴールまでの残り距離に対する割合を基準にする系統が代表的である。後者の系統では、自陣からのパスほど長い絶対距離が必要になり、敵陣からのパスほど短い距離で条件を満たす設計になる。

対象となるのはオープンプレーのパスが中心で、CKやFKなどのセットプレーは多くの場合除外される。また、ペナルティーエリアに侵入したパスは、前進量の基準を満たさなくてもプログレッシブパスとしてカウントされる扱いが一般的である。

自陣の深い位置からのパスを除外するプロバイダーも多い。GKのゴールキックや自陣深くからの大きな放り込みが、前進量の大きさだけを理由に次々とプログレッシブパスに入り込むのを抑えるための設計思想である。ただし、その除外の境界はプロバイダーごとに異なる。

チーム単位・選手単位で読み取る

チームのプログレッシブパス数は、ビルドアップでどれだけボールを前に運べているかの目安になる。特にCBやボランチのプログレッシブパス数は、最後方からの組み立てスタイルを映しやすい。

選手単位では、スカウティングで頻繁に使われる。per 90正規化と組み合わせて、ポジションが近い選手同士で比較するのが基本的な読み方になる。

ここで注意しておきたいのが、ポゼッション率の影響である。ボール保持率が高いチームはそもそも全体のパス総数が多く、プログレッシブパスの絶対数も自然と押し上げられる。値だけで「前進力が高い」と断じるのは早い。per 90や、パス総数に対する割合と合わせて読むのが望ましい。

限界と注意点

プログレッシブパスを使うとき、読み違えやすいパターンがいくつかある。以下の点は、値を読む前に踏まえておきたい。

判定基準がプロバイダーごとに異なる

絶対距離を基準にする系統と、残り距離の割合を基準にする系統がある。加えて、自陣除外の境界、ペナルティーエリア侵入の扱いの有無、基準点を「相手ゴール」に置くか「相手ゴールライン」に置くかによっても、算出されるプログレッシブパス数は変わる。

同じ選手・同じチームのプログレッシブパス数が複数のデータサイトで食い違うのは、こうしたモデル差が積み重なった結果である。比較するときは、同じプロバイダーのデータで揃えて読むのが前提になる。

前進の「結果」は評価しない

条件を満たすパスが通れば、その直後にボールを失っても、チャンスに繋がらなくても、1本のプログレッシブパスとしてカウントされる。プログレッシブパスが捉えるのは「ボールが前に動いた事実」までで、その前進が実際の得点機会や勝ち点にどれだけ寄与したかは、この指標だけでは見えない。

得点確率で重み付けするxA、エリア価値の変化で捉えるxT、通過した相手選手数を数えるパッキングなど、評価軸の異なる指標と組み合わせることで、前進の「量」と「質」の両面が立ち上がってくる。

ロングボールも条件を満たせばカウントされる

プログレッシブパスは距離による機械的判定が基本のため、GKやCBからの大きな放り込みも、条件を満たせば1本のプログレッシブパスとして数えられる。自陣深くからのパスを除外するプロバイダーも多いが、境界線の取り方は一様ではなく、完全に排除されるわけではない。

プログレッシブパス数が多いチームを見て、即座に「洗練されたビルドアップができている」と結びつけると、ロングボール主体のスタイルのチームも同じような数値帯に見えることがある。

「前進量」と「前進の質」は別

距離の基準は、同じ15mの前進でも「自陣から」と「敵陣から」で価値が違うという非対称性を捉えられない。得点確率に直結するのは、ゴールに近いエリアでの小さな前進であることが多い。

この構造的限界を補う存在として、エリア価値に基づくxT、通過した相手選手数で前進を捉えるパッキング、得点確率で重み付けされるxAが並び立つ。プログレッシブパスはあくまで「距離」という一つの視点であり、前進を立体的に捉えるためには、別の視点も合わせて使うのが望ましい。

関連する指標

プログレッシブパスを起点として、関連・派生指標がいくつか存在する。

  • プログレッシブキャリー — ボールを保持したまま前進する動きに、プログレッシブパスと対になる判定基準を適用した指標。パスとキャリーを並べることで、選手やチームがどの手段で前進しているかを多面的に捉えられる
  • xT(脅威期待値) — ピッチ上の各エリアに得点確率を割り当て、ボール移動の価値を数値化する指標。距離ではなくエリア価値で前進を捉える別アプローチ
  • パッキング — 通過した相手選手の人数を軸にプレーを評価する指標群。距離ではなく「何人の相手を置き去りにしたか」で前進の価値を測る
  • xA(アシスト期待値) — パスのシュートへの寄与を得点確率で重み付けするパス評価指標。プログレッシブパスが前進の量を測るのに対し、xAは得点機会の創出を測る
  • パス成功率 — パスの難易度・成功率を別軸で捉えるカウント指標。プログレッシブパスと組み合わせることで、量・方向・難易度を多面的に評価できる
  • イベントデータ vs トラッキングデータ — プログレッシブパスはイベントデータから算出される代表的な指標。系統別の前提理解を補う

参考