パッキングとは

パッキング(Packing)は、ボールとゴールの間にいた相手選手を、パスやドリブルなどで何人通過したかを軸にプレーを評価する考え方である。

「あの一本のパスで相手を3人抜いた」「2人をかわしたドリブル」といった見方は、サッカーを観ていて自然に湧く感覚に近い。パッキングはこの感覚を計測の軸に据えた発想である。

ボール前進を捉える指標として、プログレッシブパスは「距離」を、xTは「エリア価値」を、それぞれ軸にする。パッキングはこれらと並んで「通過した相手選手の人数」を軸に据える、第三の系統にあたる。

ただしパッキングには、他のボール前進指標と決定的に異なる性質がある。1本の指標ではなく、複数の関連指標を束ねた枠組みである点だ。

「パッキングレート」と呼ばれて「パスで何人を抜いたか」と紹介されることが多いが、これは枠組みの一面にすぎない。実際にはボール奪取などの守備アクションも対象に含まれる。攻守の両面を「相手を何人外したか」という同じ基準で並べて評価できる点が、パッキングならではの広がりにあたる。

パッキングは、シュテファン・ライナルツ(元ドイツ代表)とイェンス・ヘゲラーら4名が2014年にドイツで設立したIMPECT社が開発し、現在まで体系の中核を担っている。

Jリーグ公式サイトのスタッツページ(J STATS)には、2026年時点でパッキングそのものは公開されていない。

ピッチ上で、パス出し手Aから受け手Bへの前方斜めのパスを示した概念図。A時点ではAとゴールの間に相手が9人おり、B時点ではBとゴールの間に5人が残り、その差分の4人が通過された相手として示されている
パッキングは、パスの前後で『ボールとゴールの間にいた相手選手』がどれだけ減ったかで通過数を測る

仕組みと読み方

計測の基本

パッキングの基本となる計測は、1つのアクション(パスまたはドリブル)が起きた前後で、ボールと相手ゴールの間にいた相手選手の人数の変化を測ることである。

たとえばパスを出す瞬間に、ボールとゴールの間に相手が5人いて、受け手がボールを受けた瞬間に2人になっていれば、そのパスは3人を通過したとカウントされる。横パスやバックパスは前進を伴わないため、値はほぼ0になる。

パスでは、出し手と受け手の両方に同じ通過数が加算される設計になっている。出し手の判断だけでなく、受け手のポジショニングや動き出しも評価する仕組みである。ドリブルにも同じロジックが適用される。

指標群としての広がり

パッキングという枠組みには、目的に応じた複数の下位指標が含まれる。代表的なものを整理すると以下のようになる。

  • パスやドリブルで通過した相手選手数(Bypassed Opponents) — 上記の基本指標にあたる。「パッキングレート」の呼称で広く知られるようになったのはこれである
  • 通過した相手のうちDFのみのカウント(Outplayed Defenders) — 守備の最終ラインを崩した動きを切り出す派生指標。フィニッシュへの近接性を重視する場面で参照される
  • 守備アクションによる相手選手通過数(Removed Opponents) — インターセプトやプレッシングでボールを奪った瞬間に、奪取地点から見て相手ゴール側にいた相手選手の数を「通過した」と見なす指標。守備の局面でも、ボールを奪った行為がどれだけ相手の前進を止めたかが数値化できる

これらの下位指標を合算することで、チーム・選手のトータルスコアが算出される。

チーム単位・選手単位で読み取る

チーム単位では、攻撃スタイルの違いが攻撃側通過数と守備側通過数の構成比に表れる。

ボール保持型のチームはパスやドリブルによる通過数が、プレッシング型のチームは守備アクションによる通過数が、それぞれ高くなる傾向がある。スタイルの違うチームを単一の数字だけで比較すると、得意な前進手段の差が見えにくい。

選手単位では、スカウティングで頻繁に使われる。ただしポジションによって参照すべき下位指標が変わる。CBやボランチでは組み立てに関わる通過数、攻撃的MFやウイングでは危険な位置への運び込みに関わる通過数、CFではパスを受けた側としての通過数が、それぞれ重要視される。

なお、Jリーグ公式サイトのスタッツページ(J STATS)にはパッキングは公開されていないが、J STATS REPORT(リーグ発行の分析資料)には、似た発想で「前方への成功パスで飛ばした相手選手の人数」を測る『バイパス』が登場する。あくまでパスに限定された指標であり、パッキング全体に対応するわけではない。

限界と注意点

パッキングを使うとき、読み違えやすいパターンがいくつかある。以下の点は、値を読む前に踏まえておきたい。

通過した相手の「位置」や「状況」を評価しない

高い位置でハイプレスをかけてくる相手を抜いたパスと、自陣まで引いて固める相手を抜いたパスが、同じ通過数として計算される。同じ「3人を通過」でも、相手の守備陣形がコンパクトに整っているときと、トランジション直後で陣形が崩れているときでは、本来の難度や価値が違う。パッキングはこの状況差を区別しない。

通過の「結果」までは評価しない

パスで5人を通過しても、その後にチャンスに繋がらず保持を失えば、得点機会としては実らない。パッキングが捉えるのは「相手を外したという事実」までで、その前進が実際の得点機会や勝ち点にどれだけ寄与したかは、この指標群だけでは見えない。

得点確率で重み付けするxA、エリア価値で前進を捉えるxTなど、評価軸の異なる指標と組み合わせることで、量と質の両面が立ち上がってくる。

計算に相手選手の配置情報が必要

パッキングの計算には、ボール位置だけでなく「その瞬間に相手選手がそれぞれどこにいたか」の情報が必要になる。通常のイベントデータ(パス・シュート等の発生位置と結果)だけでは算出できず、選手配置の情報を組み合わせた専用のデータ整備が前提となる。

xTがイベントデータだけで計算できる軽さで広く使われたのとは対照的に、パッキングはデータ整備のコストが大きい。これがデータの公開範囲の狭さの背景にもある。一般のファンが複数の選手・チームのパッキングを横並びで比較できる環境は、xGなどの普及した指標と比べて整っていない。

「試合結果との相関が高い」主張の読み方

パッキングはボール支配率やパス成功率よりも試合結果との相関が高いと主張されてきた。この主張は指標の価値を支える柱の一つだが、留意すべき点がある。

根拠となるデータの大半は開発元から発信されたもので、xGのように第三者による独立検証が大規模に積み重なっている段階にはない。また、相関が高いことが因果関係を意味するわけでもない。「パッキングが高いから勝つ」という読み取りには注意が必要である。

主張そのものを否定する必要はないが、検証の積み重ね方が他の成熟した指標とは段階が異なる点は意識しておきたい。

関連する指標

パッキングを起点として、関連・派生指標がいくつか存在する。

  • プログレッシブパス — 前進を「距離」で評価する指標。パッキングが「人数」で前進を捉えるのに対し、こちらは距離の閾値で機械的に切り出す別アプローチ
  • プログレッシブキャリー — ボールを保持したまま前進する動きを「距離」で評価する指標。プログレッシブパスと対になり、パスとキャリーで前進を捉える設計
  • xT(脅威期待値) — 前進を「エリア価値」で評価する指標。ピッチ各エリアの得点確率に基づき、ボール移動の価値を面的に数値化する
  • xA(アシスト期待値) — パスのシュート創出への寄与を得点確率で重み付ける指標。パッキングが「相手をどれだけ外したか」を測るのに対し、xAは「どれだけ得点機会に近づけたか」を測る
  • PPDA(Passes Per Defensive Action) — 守備側のプレッシング強度を定量化する指標。パッキングの守備アクションによる通過と発想が近く、組み合わせて読むことで守備のスタイルが立体的に見える
  • VAEPなどアクション価値モデル — アクション一つ一つを「得点しやすさ/失点しやすさ」の変化で評価するモデル。パッキングが攻守両面を「相手を何人外したか」で評価するのに対し、こちらは確率で評価する
  • イベントデータ vs トラッキングデータ — パッキングが選手配置情報を必要とする前提理解

参考