走行距離・スプリントとは

走行距離とスプリントは、トラッキングデータから算出されるフィジカル指標群である。走行距離は運動量の総量を、スプリントは強度の側面を表す

フィジカル指標は戦術トレンドと連動して注目を集めている。欧州主要リーグでは2010年以降、高強度走(時速20km以上)の距離が約30%、スプリント(時速25km以上)の距離が約50%伸びた[*出典]。ハイプレスやトランジションを重視する戦術の浸透、APTの伸長など、試合の構造そのものの変化が背景としてはある。

また、近年では選手のコンディション管理にも広く活用されている。GPSウェアラブルデバイスが練習や試合中の走行距離・スプリント・心拍などを収集し、選手ごとの負荷を可視化する。練習メニュー設計や疲労・ケガの管理、試合での起用や交代の判断などに活かす運用が定着してきた。トップクラブから育成年代まで利用が広がっている。

2つのカードで走行距離とスプリントの違いを示す図。左:走行距離は運動量の総量を表し、移動距離(km)で試合出場中のすべての動きが対象。右:スプリントは走りの強度を表し、高速度域(時速25km以上)での走行を回数中心に集計
走行距離は運動量の総量を、スプリントは走りの強度を示す

仕組みと読み方

走行距離の中身

走行距離(Total Distance)は、選手が出場時間中に移動した距離の総和(km)である。

トラッキングシステムが秒間10〜25回ほどの頻度で記録する位置座標から、フレーム間の移動距離を足し上げて算出される。インプレー中だけでなく、ボールが外に出ているアウトオブプレー中の歩行や軽いジョグも、出場時間中であれば加算される。

トラッキングシステムには光学カメラ・GPS・ビデオ解析の3系統があり、計測原理がそれぞれ異なる。Jリーグは2015年シーズンから、光学カメラ方式のTRACABによる計測を続けている。

同じ走行距離でも、システムが違えば数値にはわずかな差が生じる。また密集場面では選手の識別が一時的に乱れることもあり、走行距離は厳密な実測ではなく推定を含む値と見るのが正確である。

フィールドプレイヤーの平均走行距離は1試合あたり9〜12kmくらいの範囲に収まる。もちろん気候条件やチーム戦術、試合展開などでも変わる。ポジション差も顕著で、ボランチやサイドバックは多く、センターバックは少ない傾向がある。

スプリント

スプリントは、ある速度閾値を超えた走行を指す。男子では時速25km以上を目安に置く例が多く、FIFA・UEFA主催大会の分析でもこの値が用いられている。速度の継続時間の条件はプロバイダーで微妙に異なる(例:J STATSは1秒以上)。

走行距離は速度ゾーンに分解して見ることもできる。典型的な分割は次のとおり。

速度ゾーン英語表記速度範囲
歩行Walking時速7km未満
ジョグJogging時速7〜15km
ランニングRunning時速15〜20km
高強度走High Speed Running (HSR)時速20〜25km
スプリントSprinting時速25km以上

エリア区分・攻守区分

走行距離・スプリントは、何を知りたいかによって集計の粒度が変わる。ピッチを3分割した領域別(ディフェンシブサード/ミドルサード/アタッキングサード)で集計すれば、どのエリアで多く動いているかが見える。

ボール保持時と非保持時で分ければ、攻撃と守備のどちらに走力を割いているかが分かる。

限界と注意点

走行距離は貢献の量を直接示すわけではない

走行距離は、勝利への貢献の量を直接示すわけではない。シーズンを通してチームの総走行距離をならしても、勝点との相関はほぼ見られないというのが、世界各地のリーグで共通する傾向である。

絶対値の大きさだけでなく、その走りが戦術上どのような役割を果たし、味方との連携や試合の状況下でどれだけ効果を生んだかという質もあわせて読むことで、走力の意味が見えてくる。

スプリントの絶対閾値と個人差

スプリント閾値は時速25kmが業界標準とはいえ、絶対閾値の限界も指摘されている。最高時速35kmの選手にとっての時速25kmは自身のトップスピードの約71%だが、最高時速30kmの選手なら約83%となる。同じ絶対閾値でも、選手によって相対強度は異なる。

このため学術領域では、個人の最大速度の70〜90%といった相対閾値への移行が議論されている。ただし現場運用では、全選手で比較可能な絶対閾値が広く採用されている。

出場時間・実効プレー時間の影響

走行距離は出場時間に強く影響されるため、選手間の比較をする場合、per 90正規化(90分あたりへの換算)が前提となる。

ただし、per 90で揃えてもAPTの影響は残る。APTが長い試合ほど総走行距離は伸びる傾向(相関は0.48〜0.61)があるためである。一方、スプリント距離はAPTとの相関が-0.17〜0.03と小さく、APTが長いからといってスプリントが比例して増えるわけではない[*出典]

関連する指標

参考