アクション価値モデル(OBV / VAEP)とは

アクション価値モデル(OBV:On-Ball Value / VAEP:Valuing Actions by Estimating Probabilities)とは、パスやドリブル、タックルやインターセプトといったオン・ザ・ボールのアクション一つ一つを、そのプレーの前後でチームの得点確率と失点確率がどれだけ変わったかで数値化する考え方の総称である。

サッカーのデータ分析では、xGによるシュート評価から始まり、アシスト期待値(xA)でシュート直前のパスへ、脅威期待値(xT)でボールの移動先エリアへと、数値化の対象がゴールから遡る方向に広がってきた。

アクション価値モデルはその延長線上にあり、あらゆるオン・ザ・ボールのアクションに対して、それがチームをどれだけ有利にしたか(あるいは不利にしたか)を共通の尺度で測る。xTが攻撃側のボール移動のみを対象とするのに対し、守備アクションも含めて評価する点が大きな違いである。

同じ基本思想のもとに、複数の研究・データプロバイダーがそれぞれのモデルを構築している。

モデル名開発主体特徴
OBV(On-Ball Value)StatsBomb独自のイベントデータ(プレッシャー情報等)を活用
VAEP(Valuing Actions by Estimating Probabilities)KU Leuven2019年発表。オープンソースの枠組みとして広く参照される
g+(Goals Added)American Soccer Analysisゴール単位での出力。パスの価値をパサーとレシーバーで配分
PV(Possession Value)Stats Perform / Opta「次の10秒以内の得点確率」という時間ベースの設計

これらは予測の対象、入力データ、評価の時間範囲、価値の配分方法がモデルごとに異なり、同じ選手でもモデルが変われば値が変わる。

OBV、VAEPはそれぞれ特定のモデルの名称であり、これらに共通する考え方を指す確立した総称はまだない。本記事では、アクション単位で価値を測るこのモデル群をアクション価値モデルと呼ぶ。

仕組みと読み方

基本思想

あるアクションが行われた「前」と「後」で、チームの得点確率と失点確率がどう変わったかを計算し、その変化量をアクションの価値とする。

  • アクションの価値 = 攻撃面の価値 + 守備面の価値
  • 攻撃面の価値 = そのアクションで得点確率がどれだけ上がったか
  • 守備面の価値 = そのアクションで失点確率がどれだけ下がったか

※ただし対象はボールに関与したアクションに限られ、オフ・ザ・ボールの動きは含まれない。

ファイナルサードへの鋭いパスには正の攻撃価値が、危険な位置でのインターセプトには正の守備価値が付く。逆に、ボールロストのように状況を悪化させるアクションには負の値が付く。xTがエリア間の移動に常に同じ値を与えるのとは異なり、セットプレーかオープンプレーか、直前のアクションが何だったかといった文脈で値が変わる。

確率は過去の大量の試合データから学習される。「このプレーは良い」という主観的な評価を「この先どうなるか」という確率の予測に置き換える——ここがこの枠組みの核にある。

モデルごとの設計差

基本思想は共通でも、モデルの設計選択によって値は異なる。主な違いを整理する。

  • 出力単位 — 確率変化量をそのまま出すモデルと、ゴール数に換算して出すモデルがある。ゴール単位で出力するモデルは「この選手はシーズンを通じて何ゴール分の価値を生んだか」という読み方ができる
  • 予測の範囲 — アクション後の得点確率を「そのポゼッション内」で見るか、「次の10秒間」のような固定の時間範囲で見るかが異なる。範囲の取り方で値のスケールが変わる
  • パスの価値配分 — パスの価値をパサーに全額付けるモデルと、パサーとレシーバーで分け合うモデルがある。後者では、パスの難度に応じて受け手にも価値が配分される
  • 入力情報の粒度 — 相手からのプレッシャー下か否か、使用した身体部位、ポゼッション内の過去のアクション履歴など、モデルに入力する情報の範囲が異なる。入力が多いほどきめ細かい評価が可能だが、特定のデータ基盤への依存も大きくなる

これらは設計者が何を重視したかの違いであり、モデルの優劣ではない。

限界と注意点

モデル間で値が一致しない

基本思想が同じでも、予測の範囲から出力単位まで設計の選択肢が多く、同じ選手の評価がモデル間で食い違う。そのため、ある選手の順位が大きく入れ替わることもある。

チームの実力の影響

強いチームに所属する選手ほどアクション価値が高く出やすい傾向が指摘されている。ポゼッションの履歴情報がチームの実力と相関しやすく、それをモデルに取り込むと所属チームの成績が選手個人の評価に影響するためである。

一部のモデルでは、この偏りを抑えるためにポゼッション履歴情報(そのポゼッションでパスを何本繋いだか、どのエリアを経由したかなど)を意図的に除外する設計を採っている。

合計値だけでは内訳が見えない

一つの数値に多くの要素が集約されるため、カウント指標のような直感的な分かりやすさはない。「この選手の価値が高い」という結果だけでは、どのプレーから価値が生まれたのかは分からない。読み解くには、攻撃面と守備面の分離や、アクション種別ごとの分解が必要になる。

関連する指標

  • xT(脅威期待値) — ピッチの各エリアに得点確率を割り当て、ボール移動の価値を面的に数値化する指標。アクション価値モデルの先行にあたるシンプルな形で、位置ベース・攻撃のみという設計を拡張したのがアクション価値モデル群
  • xG(ゴール期待値) — シュートの得点確率を推定する基礎指標。アクション価値モデルは「xGの射程をシュート以前のすべてのアクションに広げる」という動機から生まれた
  • パッキング — 通過した相手選手の人数を軸にプレーを評価する指標群。攻守両面を評価する点は共通するが、確率ではなく人数で価値を測る別系統
  • EPV(ポゼッション期待値) — トラッキングデータで選手配置まで考慮し、瞬間ごとに連続的な価値を評価するモデル。イベントデータ+アクション単位のアクション価値モデルとは、データ要件と評価粒度が異なる
  • xA(アシスト期待値) — パスをシュート創出の観点で確率評価する指標。アクション価値モデルがあらゆるアクションを対象とするのに対し、xAはシュートに繋がるパスに限定して深く評価する

参考