2026年ワールドカップの中継で、両チームの勢いを時系列で示す「マッチモメンタム」というグラフがよく表示されていました。海外の主要リーグでも、近年よく見る指標です。この記事では、マッチモメンタムの仕組みと系譜をたどります。

マッチモメンタムは、試合中の勢いを数値化した指標

マッチモメンタムは、試合中のどちらのチームが優勢だったかを、時間の経過とともに数値化して示す指標です。危険なエリアへボールを運んだ局面や、そこからチャンスに至るまでの流れといった、ボール保持の質が評価対象になります。

シュートに至らなかった攻撃も含めて数値化されるので、時間帯ごとにどちらが優勢だったかが視覚的につかみやすい特徴があります。両チームの値の差を、その分のモメンタムとして棒グラフや波形で表示するのが一般的です。

2026 FIFAワールドカップ:オランダ 2-2 日本 <前半> <後半> オランダ攻勢 日本攻勢 51' 57' 64' 88' 0' 15' 30' 45' 45' 60' 75' 90'
※Opta Analystの公開画像を参考にした概略図

上の図は、2026年ワールドカップのオランダvs日本のマッチモメンタムを示したものです。前半は膠着気味の展開が続いて点が入らず、後半に入って51分にオランダが先制、57分に日本が同点、64分にオランダが再びリード、88分に日本が同点に追いついた展開が、数値の推移として読み取れます。

Optaのマッチモメンタムは「次の10秒間の得点確率」を測っている

マッチモメンタムは、データプロバイダーごとに計算方法が異なります。ここではまず、放送で広く使われているOpta(Stats Perform)のモデルから見ていきます。

Optaのマッチモメンタムは、試合時間を1分ごとに区切って、両チームの脅威を数値化します。各分の値は、ボール保持側が「次の10秒間に得点する確率」をベースに計算されます。危険なエリアへボールを運んだり、そこからチャンスを作ったりする局面ほど、この確率は上がります。逆に後方でのパス回しでは、確率がほとんど動かないため、モメンタムの値も動きません。

たとえば、ある1分間で一方のチームの値が0.08、もう一方が0.02なら、差は0.06。この分のマッチモメンタムは、値の高かったチームが絶対差6パーセントポイント上回っていたことを意味します。

一方のチームの攻勢 もう一方のチームの攻勢 0.06
※1分ごとの値の見え方を示した模式図

1分単位の値だけでは変動が激しくなるため、直近3〜4分の値を反映した加重平均で滑らかにされています。両チームの値の差分が、その分のモメンタムとしてグラフに表示されます。

Optaが「Match Momentum」という名前でこの指標を公式に紹介したのは、2021年11月のOpta Analyst記事です。この時点で、すでにチャンピオンズリーグの中継やプレミアリーグの中継グラフィックで使われていました。

元になっている「ポゼッションバリュー」

Optaのマッチモメンタムの基礎になっているのは、2019年に公開されたフレームワーク「ポゼッションバリュー(Possession Value / PV)」という別の指標です。

これは選手の各アクション(パス、ドリブル、シュートなど)の前後で、そのチームが得点する確率がどれだけ変わったかを評価します。ハーフウェイライン付近から相手ペナルティエリア内へのパスが通れば、確率は大きく上がり、その分ポゼッションバリューも大きくなります。

初期版は「そのポゼッションから得点する確率」を計算するモデルでしたが、2019/20シーズン中に時系列版に改良され、「次の10秒間の得点確率」を計算する形に切り替わりました。

マッチモメンタムは、この1つ1つのプレーに値をつけるポゼッションバリューを、試合単位で並べ直したものです。

発想の起源──サラ・ラッドとカルン・シン

マッチモメンタムを支えるポゼッション価値モデルの初期研究として、2011年9月にサラ・ラッド(Sarah Rudd)が発表した論文があります。ハーバード大学で開催された統計学会NESSISでの発表で、講演の様子はYouTubeで公開されています。

ラッドは講演の中で、サッカーは選手個人の貢献度を評価するのが難しいスポーツだと語っています。オフ・ザ・ボールの動きの重要性や、ゴールに至るまでのプレー全体の貢献をどう分配するかといった課題を解決するために、マルコフ連鎖という数学モデルを応用しました。

具体的には、ピッチ上の状況を「ゾーンと守備状況の組み合わせ」で30種類、セットプレー7種類、ゴールとポゼッション終了の2種類の計39状態として定義し、2010/11シーズンのプレミアリーグ123試合・約10万イベントのデータから、各状態から次の状態への遷移確率を計算する枠組みです。Optaが後に公開するポゼッションバリューと同じ思想に立っています。

2019年2月、カルン・シン(Karun Singh)が自身のブログで、同種の考え方を「脅威期待値(xT)」として公開しました。これはピッチをグリッドに分割し、各エリアに「そこから将来的に得点する確率」を割り当てる方法で、以降アナリティクスコミュニティで広く使われるようになります。

ブンデスリーガによる別モデル

Optaのモデルが広く使われる一方で、明確に別のモデルとしてマッチモメンタムを提供している例もあります。代表例はブンデスリーガの実装で、リーグの公式データを扱うSportec Solutions社が、AWSと共同で開発したものです。Optaと比較すると以下のようになります。

項目OptaSportec Solutions
名称Match MomentumMatch Momentum
提供元Stats PerformDFL / Sportec Solutions / AWS
公開時期2021年11月2025年9月
基礎次の10秒間の得点確率9つの指標を統合
xGとの関係別モデル(ポゼッションバリューベース)入力の1つとして統合
時間処理直近3〜4分の加重直近5分間のウィンドウ

Bundesliga Match Fact「Match Momentum」は、Optaのように「次の10秒間の得点確率」を軸にするのではなく、以下の9つの指標を統合して算出する方式です。

①アタッキングサードへの侵入 ②xG ③xGOT(ポストショットxG)
④ゴール ⑤PA内へのクロス ⑥PA内でのボール受け
⑦コーナーキック ⑧退場による数的状況 ⑨アタッキングサードで相手が犯したファウル

集計は直近5分間を対象に、最近のプレーほど強くなる重みをつけて計算されます。攻撃脅威が0〜10のスケールで算出され、その差がマッチモメンタムとして-10〜+10のスケールで表示される仕組みです(ホーム側プラス、アウェイ側マイナス)。

このモデルの特徴は、xGが入力に含まれる点です。Opta版はシュート前の攻撃も評価するためxGの補完指標として読める一方、ブンデスリーガ版はxGを含む複数指標の合成として読む必要があります。

なお、他にもマッチモメンタムの同種の指標として、ライブスコアアプリのSofascoreは「Attack Momentum」を、Sportradarも2026年1月から「Momentum」APIを提供しています。ただし、いずれも計算方法の詳細は公開されていません。

おわりに

マッチモメンタムは、xGだけでは捉えにくい試合中の攻撃の流れを可視化する指標です。

もちろん、ゲームステートの影響で、リードした側が守備を固めると、追う側のモメンタムが高くなることもあります。値の高さが、そのまま勝利に直結するわけではありません。

ただ個人的には、xGと同じくらい観る側にとって参考になる指標だと感じています。2026年6月時点では、Jリーグの中継にマッチモメンタムは登場していませんが、いずれ導入される日が来ることを期待しています。

参考