パス成功率とは
パス成功率(Pass Completion)は、試みたパスのうち、味方につながった割合を示す指標である。
パスはサッカーで最も多く発生するプレーで、1試合に両チーム合わせて900本前後が記録される。試合中継のスタッツ表示から選手の評価まで、この指標は幅広く使われてきた。
計算そのものは単純だが、何を「パス」として数え、どのプレーを「成功」と判定するかは、データプロバイダーによって異なる。
定義と読み方
計算と水準
- パス成功率 = 成功パス数 ÷ 試行パス数 × 100
リーグ全体を合算したパス成功率は、おおむね75〜80%に収まる。チーム単位では、60%台後半から80%台半ばまでの幅がある。
リーグ全体の数字が上下する理由はいくつかある。前線へ長いボールを送るチームが増えれば下がり、後方から短くつないでビルドアップするチームが増えれば上がる。前から連動したプレスがはまる場面が増えれば、ボールを持つ側の時間とスペースは削られ、やはり下がる。
もっとも、守備側の工夫が広まれば攻撃側も対抗し、その対抗策にまた守備側が応じる。その押し合いの結果として、リーグ全体のパス成功率は数シーズンのうちに数ポイント動くこともあれば、しばらく同じ水準にとどまることもある。
何をパスとして数えるか
主要なプロバイダーの公式定義を読み比べると、パスそのものの説明はほぼ一致している。いずれも「味方へボールを届けようとする試み」を指している。違いは、その定義をどのプレーにまで当てはめるかにある。
| プレーの種類 | J STATS | Opta | Wyscout |
|---|---|---|---|
| オープンプレーのパス | 含める | 含める | 含める |
| クロス | 含める | 含めない | 含める |
| ゴールキック | 含めない | 含める | 含めない |
| CK(パスとして蹴られたもの) | 含めない | 含める | 含めない |
| スローイン | 含めない | 含めない | 含めない |
※Optaはクロスを含めた集計も出せるが、パス成功率では除くのが通例。各プロバイダーの公式定義の出典は参考セクションを参照
クロスを含めるJ STATS・Wyscoutと、ゴールキックやCKを含めるOptaとで、対象が入れ替わっている。
J STATSでは、パスを次のように定義している。
味方選手につなぐ意図があるプレー。パス数として利用する場合、クロスやスルーパスも数に含めるが、セットプレーによるパスは除外する。パスの距離区分はショート=15m未満、ミドル=15m以上30m未満、ロング=30m以上と定義。パス方向は相手ゴール方向90度が前方、他の方向も90度ごとに設定。
※『J STATS REPORT 2025』用語集より
「成功」の条件は、Optaが相手に触れられず直接味方へつながったこと、Wyscoutが次にボールへ触れたのが味方であることとしている。J STATSの公開資料には、この判定基準までは示されていない。
パスの難易度は一様ではない
一般的にパスは、距離が伸びるほど通りにくくなる。Jリーグの実データでも、全体のパス成功率が8割弱であるのに対し、ロングパス(30m以上のパス)の率は5割前後にとどまる。
相手ゴールに近い位置ほど敵は密集し、出し手も受け手も追い込まれるのが早くなる。同じ距離のパスでも、プレッシャーの有無や受け手の周りにいる相手の数、そして出し手の技術によって成否は分かれる。
限界と注意点
成功率だけでは、パスのうまさは測れない
センターバックが自陣で出す横パスと、敵陣中央を切り裂くスルーパスでは、通る確率がまるで違う。選手の技術が同じであっても、与えられる役割やチームのプレースタイル、リスクの取り方や試合状況によってパス成功率は変わる。
安全なパスは失敗が少ないかわりに、得点に近づく度合いも小さい。守備ラインを越えるパスはその逆で、通らないことのほうが多くても、通ったときの見返りは大きい。
パス成功率には、どこを超えれば高いという目安がない。両チームで100%を分け合うボール支配率なら、50%が自然な分かれ目になる。パス成功率にはそれがないため、数字だけを見てチームの出来や選手の貢献度を計るのは難しく、同じリーグの平均や近い役割の選手を物差しにするほかない。
難易度を織り込む、パス成功期待値
パス成功率は、試みたパスの難しさを織り込んでいない。イギリスの統計学者による2016年の論文は、この点を指摘したうえで、パスの成否を確率でモデル化する方法を提案している。
同じ考え方に立つ指標が、パス成功期待値である。パス1本ごとに通る確率を推定するもので、位置や距離、角度、プレッシャーの有無など、モデルごとに異なる情報を手がかりにする。推定した確率の合計と実際に成功した本数を比べれば、試みたパスの難しさを踏まえて成功の多寡を読み取れる。
これはシュートの位置や角度から得点確率を推定するゴール期待値と、同じ発想にあたる。
参考
- “Opta Event Definitions” (Stats Perform) https://www.statsperform.com/opta-event-definitions/
- “Pass” (Wyscout Glossary) https://dataglossary.wyscout.com/pass/
- 「J STATS REPORT 2025」(Jリーグ, 2026) https://www.jleague.jp/news/article/33433/
- 「パス成功期待値(xP):成功率ではわからない、パスの「難易度」や「うまさ」をデータで示す」(Stats Perform, 2023) https://note.com/stats_perform_jp/n/n8555b0b3b0f3
- “Hudl Statsbomb Release New Models: Expected Pass (xPass) and Pass Clustering” (Hudl, 2023) https://www.hudl.com/blog/statsbomb-models-expected-pass-xpass-and-pass-clustering
- Ian Graham How to Win the Premier League: The Inside Story of Football’s Data Revolution (2024)
- Łukasz Szczepański & Ian McHale Beyond Completion Rate: Evaluating the Passing Ability of Footballers (2016)