ポゼッション調整(PAdj)とは
ポゼッション調整(PAdj:Possession-Adjusted)は、守備系のカウント指標を、チームのポゼッション率に応じて補正し、異なるチーム間でも選手の守備量を比べられるようにする手法である。
タックルやインターセプトのような守備アクションは、相手がボールを保持している時間にしか発生しない。ポゼッション率が高いチームの選手は守備の機会自体が少なく、低いチームの選手は多い。同じ守備力の選手であっても、所属チームのポゼッション率によってカウント指標の絶対値が変わる。
チーム単位でのタックルやインターセプトの多さは失点の少なさとほとんど結びつかないが、ポゼッション率で調整を施すと、被シュート数や得失点差との相関が改善されることが示されている。per 90で出場時間を揃えてもこの機会量の偏りは残るため、PAdjはその追加的な補正として使われる。考え方は2014年にアナリストのTed Knutsonが提唱した。
仕組みと読み方
計算の基本
PAdjの基本的な考え方は、「仮にポゼッション率が50%対50%の試合だったら、この選手の守備アクション数はどの程度になるか」を推定することである。
Knutsonが示した簡易式は以下の形である。
- PAdj守備指標 = 守備指標の値 × 自チームのポゼッション率 ÷ 50
ポゼッション率65%のチームの選手がper 90で4回のタックルを記録していた場合、PAdj値は 4 × (65 ÷ 50) = 5.2 となる。65%保持のチームは相手にボールを渡す時間が短く、守備機会が少ない。それでも4回のタックルを記録しているなら、50%の条件に揃えれば値はより大きくなる、という補正である。
一方、ポゼッション率40%のチームの選手が7回のタックルを記録していた場合、PAdj値は 7 × (40 ÷ 50) = 5.6 となる。相手の保持時間が長いぶん守備機会に恵まれた環境を差し引くと、値は小さくなる。
生の数字では3回の差があった2人が、PAdj後はほぼ同水準になる。ポゼッション率が50%のチームでは補正係数が1.0になり、値は変化しない。PAdjはあくまで守備機会の偏りに対する補正であり、PAdj値の大きさだけで守備力を評価するものではない。
補正手法のバリエーション
この簡易法のほかに、Knutsonらはシグモイド関数を用いた非線形の補正手法も提案している。50%から離れるほど調整幅が大きくなるが、極端な値では変化が緩やかになる設計で、Knutsonの検証ではチーム単位の決定係数(R²)がおよそ0.4に達した。
実装はプロバイダーによって異なるが、ポゼッション量を考慮して守備指標を調整するという考え方は共通している。Wyscoutはポゼッション率ではなくボール保持時間(分単位)を入力値に使う独自方式を採っている。
限界と注意点
ポゼッション率と守備機会は単純に比例しない
PAdjはポゼッション率を使って守備機会を補正するが、実際の守備アクションの頻度はポゼッション率と単純に比例するとは限らない。
前から積極的に奪いにいくチームと引いて構えるチームでは、同じ非保持時間でも発生する守備アクションの量が異なりうる。相手のボール保持のスタイルや緩急によっても左右されるが、PAdjはこうした違いを区別しない。
また、試合全体のポゼッション率で一括補正するため、リード時とビハインド時でポゼッション率が変動する試合展開の影響も織り込まれない。
補正後の値は実際のプレー回数ではない
PAdj値は「ポゼッション率が50%の条件に揃えたときの推定値」であり、実際に記録されたプレー回数とは異なる。比較のための目安として読むべきであり、そのまま試合のイベント数として解釈することはできない。
関連する指標と概念
- per 90(90分あたり) — 出場時間の差を補正する標準化手法。PAdjはper 90では取り除けないチーム要因の偏りを追加補正する
- ポゼッション率 — PAdjの補正に使う入力値。パス数ベースと時間ベースで計算方式が異なり、PAdj結果にも影響しうる
- タックル — PAdjの代表的な適用対象。ポゼッション率の影響を強く受ける守備指標
- インターセプト — タックルと並ぶPAdjの主要な適用対象
- デュエル — 守備側として発生するデュエルにもPAdjの考え方が適用されることがある
- サンプルサイズと安定性 — PAdj後の値にも、元のカウント指標と同じサンプルサイズの制約が残る
- PPDA(守備アクションあたりのパス数) — 相手パス数と守備アクション数の比率から、チームのプレッシング強度を見る指標。PAdjとは異なるアプローチで守備とポゼッションの関係を捉える
参考
- Ted Knutson “Introducing Possession-Adjusted Player Stats” (Hudl StatsBomb, 2014) https://blogarchive.statsbomb.com/articles/soccer/introducing-possession-adjusted-player-stats/
- “Possession-adjusted” (Wyscout Glossary) https://dataglossary.wyscout.com/p_adj/